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Meet the Professionals ~ Andy Clarke(後半)公開

2007年3月5日
フロントエンド・エンジニア 木達

ミツエーリンクスVideocastingにて、Meet the Professionals ~ Andy Clarke(後半)を公開中です。

「Meet the Professionals」は、Webの世界で活躍する各分野のエキスパートにインタビューを行うシリーズです。今回はWeb Standards Project(WaSP)のWebサイトのビジュアルデザインを担当したほか、数々のサイトを通じWeb標準準拠とアクセシビリティ対応を実現してきた、WebデザイナーのAndy Clarkeさんにお話をうかがいました。

前半では彼の経歴、特にどのようにWebデザインを学んできたかについてや、サイトがWeb標準に準拠した状態を維持していくうえでは意思決定層の理解が欠かせないとの重要な指摘についてお話いただきました。後半では、それを受けてW3CCSSワーキンググループでの活動やCSSの将来像を伺ったほか、昨年11月に刊行された最新著作「Transcending CSS: The Fine Art of Web Design by Andy Clarke」についても紹介していただきました。

なお、このインタビューはWeb Directions 06が開催された2006年9月末にシドニーで収録したものです。

木達:Andyさんは今、W3CCSSワーキンググループに招聘専門家として参加していますね。そこで期待されていることは何ですか? 現行のCSSの仕様についての意見と、将来それがどうなるかについて聞かせてください。

Andy:これは非常によい質問です。2カ月前にCSSワーキンググループに招聘専門家としての要請を受けたことは、非常に光栄に思っています。このインタビューを行っている2006年9月の時点では、私は書き物をしたり、それ以外のことをしているため、実際にはあまり多くは関わっていないのですが。

私の主な役割は、デザイナーの観点をこのワーキンググループに持ち込むことです。、国際化、およびその他の分野についてワーキンググループが取り扱っている課題はいろいろありますが、私が一緒に仕事をするほとんどの人はCSSがビジュアル的なプレゼンテーションにおいて何ができるかということに関心をもっています。

ワーキンググループの高度に技術的な本質と、現実の世界で何が起きているかという点について私が架け橋を渡すことができればと思っています。これは、今までワーキンググループにおいて取り扱われなかったことです。実務経験のあるデザイナー、トレーニングを受けたグラフィックデザイナーやレイアウト担当者が、過去にワーキンググループに参加したことはありませんでした。ですから、これを担当するように要請されたことは非常に嬉しいことであり、光栄だと感じました。

極めてフラストレーションがたまることのひとつには、CSSについて私たちができることに関する仕様やアイディアが、実際に日の目を見るまでに長い時間のかかることが挙げられると思います。CSS2.1が今なお勧告になっていない点に驚いています。狂気の沙汰です!CSS2.1が仕様ではないにせよ、また勧告されていないにせよ、ブラウザではCSS2.1のほとんどすべてをサポートしている事実があります。これは、尋常ではありません。

私は、W3Cが現時点でその存在意義について、若干問題を抱えていると認識しています。ワーキンググループにおいて進行に時間がかかるというのは、まったく問題解決の役に立っていません。解決を試みなければならない問題のひとつ、そしてワーキンググループ全体的な問題のひとつには、検討すべき事項が莫大だということです。彼らはその他の要因すべてを検討しなければなりません。CSSワーキンググループ内において何かしている場合、彼らがつねに口にしなければならないのが、「それはSVGだから、本来私たちの仕事ではない」ということです。ばかばかしいことにCSSの背景の階調度についても、「いや、それはできません。それはSVGですから」と言うわけです。単に取り組めばよいのです。大した事ではないのですから。

彼らには対象に含めるべき膨大な範囲があり、未解決部分を含む多くの分野がそれに含まれているためだ、と私は考えています。彼らが真剣に取り組んでいないということではありません。というのも、非常に熱心に取り組んでいますし、全員が非常にすぐれた人物で、頭の回転の速い人々だからです。ワーキンググループにいるBert BosHåkon Lieが、第一にCSSを発明しました。しかし、私たちはこれ以上時間がかかるのには耐えられないというレベルに達していると思います。CSSは、私たちが現在しなければならない複雑でリッチなレイアウトやインターフェースを取り扱うようには設計されていません。これを担当するように設計されている唯一のものはFlashです。私たちはそれを行う必要があり、しかも今すぐに行動すべきです。

CSS3にはいくつかの素晴らしい点があり、いくつかのものは実際、非常に役立つものになるでしょう。非常に有益となりそうなものはありますが、ワーキンググループは今まで、全面的な検討を行っていません。たとえばマルチカラムレイアウトについて、彼らはデザイナーの意見を聞いたことがありません。ワーキンググループ内部での処理の方法は、尋常ではありません。メーリングリストのやりとりに付いていこうとしたことがあれば、または何かが勧告や候補に登場した際、会話は突如として事細かな技術的な事柄に絞り込まれてしまうのです。デザイナーはそれに付き合うだけの時間はありませんし、実際に取り組みたいとも考えていません。これは一大事だと思います。というのは、プロセスはオープンであっても、これらのやりとりに付いていくこと以外に何かしたいことのある人にとって、入り込めないものであるためです。

これを変えなければなりません。進行のスピードアップとよりオープンにするために、私が何らかの影響を及ぼすことができることを望んでいます。

木達:これはCSSに限った話ではなく、W3Cの仕様のすべてに当てはまると思います。おそらく、どのような種類の仕様であっても、開発や実装となると問題があります。これは、個人的な見解ですが。

Andy:そうですね。その点はおっしゃるとおりです。私は、これまで関与してきたのがCSSワーキンググループだけであるため、他については意見を言えません。しかし、状況について私の知る限りにおいては、WCAG2(ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン2)の状況に関し、実に強烈な意見を読んだことがあれば、現実にはアクセシビリティについて非常に熟知している人がおり、Joe ClarkDerek FeatherstoneJames EdwardsPatrick Laukeといった、最前線の人々の存在がわかるでしょう。彼らはユーザーテストを行っており、実際アクセシビリティについて非常に精通しています。

一方、WCAG委員会でもワーキンググループでも、名前は何でもよいのですが、これらについて言えば、たいていの場合、山のような研究者で溢れかえっています。どれくらい長かったか覚えていませんが、これだけ大きな本で、仕様の読み方、新しいガイドラインの読み方が書かれているのです。しかもこんなに厚い本で。誰が気にとめるというのでしょうか?正直なところを言えば、私なら古いガイドラインで十分だと思いたくもなってしまいますよ。私は、これはW3Cにおける非常に大きな問題だと思います。

業界が信じられないほどのスピードで変化しているのだから、W3Cも前に駒を進めなければならないとする草の根運動が、実際の必要性から今まさに生じているのだと思います。W3Cは、時代遅れになる真の危機にあります。

木達:ワーキンググループの活動の一環としてのCSSについて、これまで経験した良い点と悪い点を教えてください。これまでいくつの意見が寄せられましたか? また興味深いものはありましたか?またWebデザイナーとして、現在のCSS仕様とその将来についてどう感じますか?同じ質問かもしれませんが。

Andy:若干異なる点があると思います。まだ盛り込まれていないもので、CSS3への期待については、それほど強くではありませんが、意見を求めている旨を書きました。しかし、CSS3の現在の問題のひとつは、私が思うに、異なるモジュールに分割されている点です。マルチカラムがあり、ボーダーと背景があり、先進レイアウトがあります。私としては、これにアプローチするには非常に賢明な方法だと考えています。ワーキンググループも、どれを最初に片づけるべきか、優先順位を設定していますが、だからといって、必ずしもこれが実際に仕事をしている開発者の意見を反映しているとは限りません。

このため私は、最も重要なことは何であるか、またみんなが最初に対応を望むものは何かに関する質問を投げかけたかったのです。また、これらの仕様の範囲内においておそらく人々が望むようなもの、または良いけれども適切ではないかもしれないと考える方向性、あるいは完全に誤っているものが何か、です。回答してくれた人の多くは、私が尋ねた質問をおそらく誤解していたと思います。「そうですね。○○を実現するようなプロパティがあれば実に良いでしょう」というようなやりとりが多かったからです。

実際には、その特定の記事は私にとって有意義とはならなかったと思います。人々は参加してくれましたが、私が望んでいた回答は得られませんでした。回答から、本当に求めているものが見えてこなかったのです。

CSSワーキンググループが物事の進展を加速できるのに役立つ方法を考えることに、高い関心を寄せています。最近私は、世界中のデザイナーや開発者の一部と、何らかの形のコミュニケーション・メカニズムを構築する可能性について話し合ってきました。本質的にCSS3に取り込めるもの、デザイナーまたはWeb開発者の見地から詳細に検討できるもの、そしてできればそれに対する変更点を考え出すこと、そういうメカニズムです。変更すべき点、または深く掘り下げる必要があると私たちが考えた場合、人間が理解できる言葉で記述するわけです。そして、これを適切に説明します。なぜなら問題のひとつに、Web開発者だけでなくブラウザの実装担当者にとっても、対象がどのように動作するのか実際に理解するのは非常に困難という点があるからです。私たちは、本当に明確な説明を求めており、これによって人々が個々のプロパティが何を目的としているか理解できるようになります。

可能性としてはwikiのような形で、草の根的な協力体制を築き上げて、人々が仕様を取得・編集できたりするものに多大な興味があります。私たちは、共同的なプロセスとしてこれを実行すれば、その後ワーキンググループに出向き「聞いてください。マルチカラムモジュールの仕様の書き換えに5,000人が協力してくれました。これが私たちの求めているものです」のように伝えることもできます。おそらく、これには何らかの影響力があるでしょう。私は、それがどのように発展していくか確認したいと考えています。私が話してきたものについて参加の意思表明をしている人がたくさんいます。このため、ひょっとしたら来年、これに沿った形で何らかの進展が見られるかもしれません。

木達:非常に興味深いものです。Andyさんは今、Mollyさんと共著でWebデザインに関する本を執筆していると聞きましたが・・・。

Andy:ええ、Mollyが編集を担当しています。

木達:私も将来読むことになるだろうと思っています。楽しみにしていますよ。

Andy:ありがとうございます。

木達:その本について詳しく教えていただけませんか? たとえば、対象読者や、どんな情報が盛り込まれているかといったことです。

Andy:良い質問です。というのも、人々が本を買って、期待していたものが得られず残念に思われるのは、私の望むところではないですから。私は、CSSについてではない本を書きたかったのです。Webデザイン関連の書籍で多く見られるようなチュートリアルとは異なる、CSSを使うけれども格好の良いデザインについての本を書きたかったのです。

その本は4部構成になっています。最初に発見の部を用意しました。ここでは、Webデザインの異なる見方アプローチをとる必要性全体について議論しています。過去の、たとえば古いブラウザに関する制約を忘れて、最新のブラウザや最新のCSSで実現できる格好の良い、興味深く感銘を与えるタイプのデザインを実際に見てみることです。並はずれたCSSのこのアイディア全体は、あらゆるブラウザを対象にしてデザインするのではなく、それぞれのブラウザの性能に併せてデザインするということであり、それでもすべてが同じように見える、という基本的なものです。

そこからワークフローに踏み込み、Web標準、XHTML、CSSをデザイン・プロセスやプロトタイプ作成の一環として使用する方法に話は続きます。これでどのように仕事ができるのか、CSSやXHTMLベースの作業にデザイナーや開発者を同時に参加させることができるかに紙面を割いており、これによってワークフローの改善や、共同作業がより優れたものになるように願っています。

そして、デザインのインスピレーションに進みます。デザインのインスピレーションを求めるところから、私たちが世界中の新聞を見ているかどうか、雑誌や建造物を見ているかどうかにかかわらず、私たちの見ているものに目を向けます。近年私たちが決まり切ったパターンにはまってしまった、標準的なデザインから切り抜けるための異なる方法です。私の知っている多くのデザイナーは、Webサイトをデザインするならば、他のWebサイトを見ることからインスピレーションを得ると言います。

木達:たいてい横幅固定で中央寄せ、みたいなものですか?

Andy:そうです。デザインにトレンドがあるのはおわかりいただけますよね。今年は、黒の背景に白のテキストが多く見受けられ、大きなフッターやグラデーションなどがありました。もちろん、眩しい反射的なWeb 2.0スタイルもありました。だからこそ、デザインのインスピレーションにはWebを見るのではなく、外に目を向けるという発想です。

そして最後にCSSで締めくくります。しかし、私がしているのは、CSSの最も興味深いコンポーネントを取り上げることですから、プロパティの詳細を議論してはいません。実際にはfloatで配置できる面白いことについて紹介し、これがツールのすべてを使って、面白いエレメントや興味深いデザインを作ることのできる方法、それらを過去のストーリー、雑誌の切り抜き、通常見たりするものの多くから作り上げるのです。

そして、先進レイアウト・モジュールの話になり、CSS3の一部であって、私が非常に期待していることについて触れます。このCSS3の仕様や草稿、それが機能している様を見たことのある人はいません。私は非常に幸運なことに、WebブラウザでCSSの先進レイアウトを機能させるJavaScriptの一部を実際に記述した、CSSワーキンググループの担当者のひとりから許可を得ることができました。本を買って読む人々は、将来がどのようになるかを見ることができ、これを実現することになるファイルをすべてダウンロードすることもできます。

これは、決して初心者向けの本ではありません。初心者向けの構文、アンカー、ボーダー、背景について学習するための本を探しているのであれば、この本は適切ではありません。その代わりに、私の友人のSimon Collisonの本をお薦めします。可能性としては2冊ですね。私の本と彼の本です!CSSについて何も知らない人が読むべき本ではありません。希望としては、ちょっと異なる視点から考え、いつもと違うことをやってもらうきっかけになればと思っています。

木達:とても面白そうですね。オリジナルの書籍ですよね?

Andy:そうです。私は非常に幸運でした。出版社のNew Ridersが、独自のアプローチに非常に熱心だったのです。同社はWebデザインの本やWebデザインとCSSの本はもちろん、デザインの本を出したことはないはずです。私は物事をきちんと整理したいのと、書籍のデザインについては非常に学者ぶったところがあるので、私と一緒に仕事をするのは本当に大変なことになるとは自覚していました。出版社の人は私を銃で撃ち殺したいはずです(笑)。最終的にすべてがうまくいってくれるとよいのですが。

木達:本が発売されるのはいつですか?

Andy:11月中です。

木達:11月末までに?

Andy:そうです。当初はもっと早かったのですが、私が予想していたよりも若干時間がかかりました。11月中旬から月末のあいだに発売されればいいなと考えています。クリスマスプレゼントに最適です!

木達:素晴らしいですね。最後に、WebおよびWebデザイン全般的な将来について、Andyさんの希望を聞かせてください。

Andy:それは非常に難しい質問です。デザイナーたちにWeb標準、CSS、アクセシビリティは気にしなければいけないことではなく、単純に仕事の一部であるということを理解してもらいたいと思います。Web標準コミュニティの外で仕事をしている多くの人々に、それがルールを守ったり、法律を守ったり、検証に合格するといったことではないということを早く理解してくれることを願っています。それは真にクリエイティブな仕事をするということであり、うまくやり遂げることです。将来、より多くの実例が出てくることを楽しみにしています。

木達:ありがとうございました。

Andy:楽しませていただきました。呼んでくださって、ありがとうございました。

木達:お越しいただきありがとうございました。

Andy:ありがとうございました。