リソースを単一化することのROI
Web標準への準拠によって期待される対投資効果(ROI)として、将来のリデザイン時におけるコスト削減や、通信帯域の節約などをご紹介してきました。今回はまた別の視点、つまり複数のリソースを単一化することに期待されるROIについて触れたいと思います。
かつて、Microsoft社とNetscape社が激しいブラウザシェアの争奪戦(世に言う「ブラウザ戦争」)を繰り広げていた頃、ブラウザの種類やバージョンを判別し、それぞれに異なるリソースを配信するといったことが行われていました。これは、ブラウザ個々に異なる特性に最適化した状態でもって情報を届ける意図からなされたことです。しかし、いざ内容を更新する際にはファイルを個別に編集しなければならず、非効率的な運用と言わざるを得ませんでした。
また、印刷用などと称して、同じコンテンツを物理的に別のファイルでもって提供、あるいはサーバサイドのプログラムを介して印刷用の別の文書に変換しているような事例を見かけることがあります。印刷時への対応としては、printメディア向けのスタイルシートを用意さえすれば、このような印刷用ファイルなり高度なプログラムなりを別途用意する必要が無いにもかかわらず、です。
あるいは、アクセシビリティの確保を目的として「テキスト版」と題し文字情報だけで同じ内容を再構成したWebページを提供している場合があります。この場合もやはり、更新時の手間を考えるならば非効率的ですし、また実際に障害をお持ちの方のなかにはテキスト版に対し「内容上の差異は無いのか?ちゃんと更新されているのだろうか?」といった部分で不安を抱く方もいらっしゃいます。
最初の事例については、近年の視覚系ブラウザであれば一層Web標準を意識し、また仕様をより忠実に解釈する方向で開発とリリースが続けられていますから、もはやそうする意義は薄いでしょう。制作者側も同じWeb標準に準拠したリソースを提供すれば、個々のブラウザではほぼ同じ見栄えや動作が期待できます。
また他の二つの事例においては、同一の情報を複数のリソースでもって管理しようとすることに問題があり、それに伴うコスト増も少なからず存在しているものと思われます。しかしWeb標準を導入し、たとえば印刷用スタイルを提供したり、あるいはWebアクセシビリティを確保するならば、いずれの問題も解決が可能と思います。
このように、リソースを単一化して管理・運用するようにすることで、かかるコストを抑えることができます。そもそもWebはユニバーサルな情報空間であり、同じリソースをできるだけ多くのデバイスやソフトウェアで利用できる状態にしておくことが望ましいでしょう。Web標準は、その実現のための極めて有効なツールであるといえます。