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John Allsopp氏インタビュー(前半)公開

2006年12月28日
フロントエンド・エンジニア 木達

ミツエーリンクスVideocastingにて、Meet the Professionals ~ John Allsopp (前半)を公開中です。

「Meet the Professionals」は、Webの世界で活躍する各分野のエキスパートにインタビューを行うシリーズです。今回はWeb Standards Project(WaSP)にその初期から携わり、CSS SamuraiのメンバーでもあったJohn Allsoppさんにお話をうかがいました。彼は現在、WestcivにおいてCSSエディタの「Style Master」を開発しているほか、microformatsの普及に積極的に貢献しています。

なお、このインタビューはWeb Directions 06が開催された9月末にシドニーで収録したものです。

木達:まず、私たちのインタビューにお越しいただきありがとうございます。Johnさんには、CSSサムライのように多くの興味深いバックグラウンドがあるので難しいかもしれませんが、簡単に自己紹介をお願いできますか?

John:私についてですね。まず私は、自分のことをソフトウェア開発者だと思っています。私はCSSエディタであるStyle Masterを開発しました。ソフトウェアはそれだけでは役に立たないと考えています。より大きな全体の一部です。ソフトウェアの一部は、トレーニングや学習と関係しており、そのソフトウェアの他の部分と関係しています。

このソフトウェアが、私と私たちの会社でWeb開発を対象としたトレーニングをまとめ上げるのに一役買ってくれました。最終的にこれによって、当初はWeb Essentials、現在はWeb Directionsという名のカンファレンスに発展しました。ちょうどシドニーで開催されたばかりのものです。2月にはカナダでも開催されます。Web Directions SouthWeb Directions Northがあるので、ひょっとしたら、Web Directions Eastも必要かもしれません。

木達:East・・・東とは日本ですか?

John:それについては、後ほどお話ししましょう。予定されているものはありませんが、もちろん日本には高い関心を寄せています。

さて、ソフトウェアから始まったわけですが、それを出発点とし、これらすべてはWeb標準や標準をベースにしたWeb開発に関連づけられています。これは、私たちがすることすべての基礎です。

木達:Web Directionsのお話しが出ましたが、私がシドニーにいるのも、Johnさんの運営するすばらしいWeb開発とWebデザインのカンファレンスが目的です。Web Essentials '04と'05といった過去2回のイベントと比較して、今年のイベントをどのように思いますか?

John:2003年に計画し始めたとき、Webは本当に今と異なっていました。Web標準は普及しておらず、人々は文法的に誤ったHTMLを使用し、CSSは使われていませんでした。アクセシビリティ、国際化、文書型への妥当性に真剣に取り組んでいる人はいませんでした。テーブルベースのデザインは非常に一般的で、fontタグもよく見受けられました。私たちは、基本的なことに注力したカンファレンスを用意する必要性を感じたのです。つまり、Web標準をベースにした開発、文法的に妥当なHTML、CSS、アクセシビリティ、そしてそれらを適切に使用することについてです。

初年度に私たちは、その点に本当に集中していました。2年目になって私たちが成長すると、焦点を若干幅広くして、ユーザビリティやユーザーを中心に据えたデザインを深く掘り下げました。今年、私は3年の間に多くのことが変化したと感じています。人々はアクセシビリティやWeb標準の教訓を学習してきました。引き続きそれらにスポットを当てる必要はありますが、Webの方向性の未来に向けて、前進することができます。それがカンファレンスの名称を変更した理由の一部であり、そのような方向性を模索しています。

今年については、オンライン・コミュニティの構築、RSSの利用、デザインにおけるボーダー・コンセプトの適用、ソーシャル・ネットワークや社会的媒体としてのWebといったトピックスについて講演がありました。毎年私たちは、より幅広い関心やトピックスを作り出すことを願っています。もちろん、2年前には存在すらしなかったmicroformatsにも、大きな関心が幅広く寄せられています。プレゼンテーションの少なくとも半数は、多少なりともmicroformatsについて言及していたと思います。

これは実際に起きていることで、つまり次第に話題の幅が広くなっているのだと思っています。今年は技術と理論、またデザインと開発で非常によいバランスが保たれたと思います。フィードバックも良く、過去最高のものでした。参加者も実に熱中していました。年々、得られる知見は増えています。何がうまくいって、何がうまくいかないかを学べます。より優れた講演者を多く見出し、カンファレンスの範囲を拡大することができます。私たちは本当に満足しており、参加者も満足してくれたと願っていますし、実際そうだったと思います。昨年と今年とであなたは違いをみつけましたか?

木達:はい。私にとって際立った違いは、情報アーキテクチャのトピックでした。それは私にとって、非常に興味深いものです。主要なトピックスは、実装レイヤーからより深いレイヤーに向かって、核心または戦略的なトピックへと掘り下げられていると思います。

John:鋭い点だと思います。実装も重要ですが、戦略はよりいっそう大事であり、戦略的思考にフォーカスする人が増えています。情報アーキテクチャですか。これも重要ですね。

木達:Webサイトに関するJesse James Garrettの5つの平面をご覧になりましたか?

John:見たことはありますが、忘れてしまいました。

木達:私はその図を見たことがあり、Webサイトについて考えるときはいつも思い出します。トップのレイヤーはビジュアルで、最も深層部にあるレイヤーが戦略です。これが、違いについての私のコメントです。ますます深みを帯びてきています。

John:そうですね。私たちは、業界として、また職業としてより洗練されいくと思います。ユーザーやクライアントの問題解決を支援するために解決する必要のある異なる問題をより深く、幅広く理解できるようになっています。よい指摘ですね。

木達:ありがとうございます。Johnさんもご存じのように、私はWeb Standards Project、WaSPのメンバーです。Johnさんはこの組織の初期段階からメンバーでした。どのように、またなぜWeb標準を支援し、WaSPを立ち上げたかお話を聞かせていただけますか?

John:そうですね。私は、Web Standards Projectの初期メンバーでした。私に誘いの声がかかるまでどれくらいかかったのかは分かりませんが、おそらく設立から数カ月といったところでしょう。1996年当時、リッチなハイバーテキストタイプのメディアで、マッキントッシュ向けのナレッジ・マネジメント・アプリケーションである「Palimpsest」というソフトウェア・プロジェクトに携わっていました。リンク付けされた情報空間を柔軟に作り上げることができるものです。Palimpsestではリンクにタグを設定し、双方向のリンクを設定することができたため、ここからあちらへ、またあちらからこちらへ、双方向リンクが可能でした。

私たちはWebがまだまだ黎明期にある1993年にそのプロジェクトに着手しました。1994年か1995年初期に、オンラインで販売し始めた製品があります。流通させるべき製品があり、Webはソフトウェアを販売する偉大な媒体だと考えたので、Webに踏み込んだわけです。当時は非常に革命的なことでした。名前は出しませんが、大規模なソフトウェア/ハードウェア企業のお偉方と会話したことを覚えています。彼は、Webでソフトウェアを販売するという発想が馬鹿げており、箱詰めされたもの以外ソフトウェアを買う人は決していないと話していました。

そして、Webに似て非なる私たちの製品を販売するために、Web開発やWebデザイン、eコマースについて学習しました。ソフトウェアのおかげでHTMLの情報を効率的に学ぶことができ、そこで製品をWebと少しだけ融合させました。HTMLについては多くのことを学び、人々はさまざまな場所で私に教えを請うようになりました。その頃は、HTMLなどについて知っている人はそれほど多くなかったからです。

教え始めてすぐ、私たちがそれまで40年間学んできたITとソフトウェア・エンジニアリングすべての教訓をすべて忘れてしまっていることに気付きました。私にはソフトウェア・エンジニアリングとコンピューター・サイエンスのバックグラウンドがありましたから、それらの教訓を得ることができたのです。私は1960年代、1970年代、そして1980年代に犯した過ちに気付き、Webにおいても私たちが皆同様の間違いを犯していることを見て取ることができました。

Webを対象とした開発者向けに、ソフトウェア・エンジニアリングの原則を教えようとしていました。そして私はCSSについて学び、すぐにこれが今まさに必要なものだとわかったのです。そういうわけで、CSSはまだドラフト段階にあったと思いますが、私はCSSを教え始めました。私の生徒達の役に立つ何かすぐれたソフトウェアを探したのですが、良いものがなかったので、自分で開発しました。

インタビューの冒頭、ソフトウェアはそれだけでは機能しないとお話ししました。私は、人々にはそれを学ぶ手助けとなる教材が必要だと認識したのです。学習すべきもののひとつに仕様がありますが、それは非常に複雑かつ難解であり、Webコンテンツの制作者向けに書かれたものではありません。これは、ツールやブラウザの開発者向けに書かれています。

そこで私は、読み手にわかりやすいバージョンの仕様を書きました。私は記事を書き、考えを述べながらCSSを普及させました。そしてJeffrey Zeldmanが突然、私に連絡をよこしたのです。電子メールで「CSSの専門家らと共にWeb Standards Projectに取り組み始めたのですが、メンバーになりませんか?」と言ってきました。非常に光栄で、とても驚き、これに参加することを幸せに思いました。

当時4、5人のメンバーがいました。Todd Fahrnerもそのうちのひとりで、彼は実に優れた人物でした。当時いた他の人々の名前については、ちょっと思い出して、記憶を整理しなければなりません。しかし、今でも非常に著名な人々がいます。Jeffreyは「誰か推薦してくれますか?」と聞いてきたので、私は「Eric Meyerはグループにいますか?」と聞き返しました。彼は「いや、それは素晴らしい提案だ」と言いました。もちろん、Eric MeyerとJeffrey Zeldmanが顔を合わせたのは、それがきっかけです。以上が、私の場合の物語です。Webにおける私の名声は、Eric MeyerとJeffrey Zeldmanを引き合わせたおかげです。

それは人々が必要としているものを確認し、提供するというプロセスでした。Webについて気に入っている点は、それがコミュニティであるということです。人々は、各人の貢献に価値をおき、もっと頑張るよう鼓舞します。このようにして、私はWaSPに関わるようになりました。CSSサムライと呼ばれていたのは、7人のメンバーがいたからです。もちろん、黒澤氏の映画から命名したものです。黒澤氏で合っていますか?

木達:そうですね。

John:「セブン・サムライ」でしたね。

木達:そのとおりです。

John:日本語では何というのですか?

木達:日本語ですか?

John:映画のタイトルです。

木達:発音を知りたいのですか?

John:・・・見ている方が日本語で理解できるようにです。

木達:「七人の侍」です。日本語ではそのように言います。

John: 7人のメンバーがいたからこそCSSサムライなのです。

木達:なるほど。

John:これが、私にとってのきっかけです。WaSPではMicrosoft、Netscape、そしてOperaなどのブラウザ開発者との関係を構築することを目的としていました。単に批判的には思われたくありませんでした。むしろ建設的でありたいと願っていました。そこで、主要ブラウザがそれぞれにCSSについて抱えている問題のトップ・テンを選択するプロジェクトを用意しました。これを解決すれば、ブラウザは、Webコンテンツの制作者にとって、ずっと優れたものになります。

そして、あらゆる組織に対して公平な立場で言うならば、彼らは耳を傾けてくれましたし、私はこれが非常にプラスの効果をもたらしたと思います。WaSPがしたことすべてに影響力がありましたが、初期段階に行ったことは特にそうであったと、私は考えています。それなくしてCSSが今ほどの成功を収めることができたかはわかりません。'96年や'97年を思い起こすと、CSSのブラウザのサポートはひどいものでした。話が長くなってすみません。

木達:非常に興味深いお話しです。ありがとうございます。

John:ありがとうございます。