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Web標準が当たり前な世の中になった時の戦略

2006年1月10日
フロントエンド・エンジニア 木達

CSS Nite Vol.3に寄せられたご質問のなかから、最も興味深い質問として、shuburnさまのお書きになった以下のご質問を選ばせていただきました。

今、Web標準の次のステージを考えています。現在、Web標準に準拠した日本のWebサイトはまだ多くはありませんが、大手ポータルサイトが準拠し出したら急激に普及しそうです。2006年は本当の意味でWeb標準元年になるのかも知れません。

Q:そこで木達さんに質問ですが、Web標準が当たり前な世の中になった時の戦略として何かお考えでしょうか?

世の中のWebサイトがすべてXHTMLで書かれるようになったとき、もはや「Web標準」が売りにならなくなる前に我々は何処へ向かって行くのでしょうか。。

SEO(検索エンジン最適化)を例に考えてみますと、その主要な施策のなかには、一昔前であれば「適切なマークアップ」という項目が必ずといってよいほど含まれていました。見出しにはそれ専用のタグ(<h1>や<h2>など)を用いましょうとか、強調したい内容は<em>や<strong>要素としてマークアップしましょう、といったことです。

これはごく当たり前のことなのですが、それがまだ十分認識されていなかったり、認識はされていてもそれを実践するWebコンテンツの割合が相対的に小さかった時代には、SEO上のアドバンテージとして機能したわけです。

しかし今や、個人から大手企業に至るまで、文書構造に則したマークアップの重要性というものが(SEOのみならずWebアクセシビリティの向上という側面からも)広く知られるようになり、また実践され始めています。こうなりますと、適切なマークアップの重要性が変わることはないにせよ、アドバンテージとしては機能しにくくなってきます。検索エンジン相手に機械可読性を高めただけでは、もはやSEOとは呼べなくなったというわけです。

昨今ではコンテンツそのものの改変を通じたSEOが比重を占めてきているように感じていますが、まさにこれと同じような流れが、今後Web標準でも起こるのではないかと予想し、また期待もしています。

つまりWeb標準という考え方やそれに基づく制作技法が常識となった暁には、コンテンツにある情報や機能そのものの価値、あるいはユーザがサイトを利用する際の体験の質の向上に対し、一層のエネルギーを割く時代が訪れるだろうと思うのです。

制作側の視点では、上記のような予測の基に、サイト構築における上流工程においてより高品位のサービスを提供するための能力を(会社単位であれ個人単位であれ)備えておく必要があり、またそのための戦略が求められていると考えます。

コンテンツやユーザ体験の質は言わずもがな、Webサイト構築において最も本質的かつ重要な部分であり、常に重視すべき領域には違いありません。そして限られたコストや時間のなかで、少しでもその領域にお金や時間、人を割り当てるには、制作進行上より下流に位置する実装工程や検品工程を効率化する必要があります。

Web標準が当たり前な世の中になるということは、個々のブラウザの仕様や解釈に合わせて制作を行うのではなく、唯一Web標準に準拠するよう制作することを意味しますから、スタイルシートの設計やブラウザによるレンダリング結果の目視確認は、今よりずっと効率化できるはずです(当然、制作に用いるオーサーリングツールも、その頃にはより高機能化・高効率化しているでしょう)。

Web標準の常識化の前後で、サイト構築に割り当てられるコストに同じ水準が維持されることを前提に考えれば、この効率化によって生まれる余剰の工数は、より上流の工程、すなわち情報デザインやユーザビリティ・エンジニアリングなどに振り向けることが可能になるでしょう。

Jesse James Garret氏の描いたユーザ体験の要素図(日本語版のPDFファイル)でいえば、上層で保証すべき品質は維持したまま、より下層における設計やデザインにエネルギーを割くことができるはずです。これにより、全体的なコストは同じままであっても、より効果的なWebサイトを提供できるようになると思います。その実現のための戦略を、Web標準の普及・啓蒙活動を通じ、日々考えています。

以上、「Web標準が当たり前な世の中になった時の戦略」につき、お答えになっているか分かりませんが、私見を述べさせていただきました。

コメント

web標準が当たり前な世の中になった時
意味するのはweb生産能力のアップです。

サイトの仕組み、見栄えよりも
もっとコンテンツ本位、コンテンツを重視したサイト制作になっていくと思います。

Posted by: 祖 : 2006年1月11日 17:32

祖さま、コメントありがとうございます。生産能力のアップとそれに伴うよりコンテンツ本位の制作というのは、仰る通りかと思います。

Posted by: ミツエーリンクス : 2006年1月13日 16:59

shuburin こと シュウちゃんねる です。
お忙しい中、私の拙い質問に回答して下さいまして、誠にありがとうございます。

また、最も興味深い質問に選んで頂きまして、恐縮しております。

さて、インターネットの世界は、ゴールがありません。常にβで見切り発車し、変化に対応できないと生き残ることが困難な世界です。

Web制作に携わる者として、時代の半歩先を見据えた戦略なりヴィジョンが必要だと常々思っております。また、そんな未来についてふと考えに耽るのは、先見力など養うのに良い習慣かと思い、実践したい事柄です。

今回、木達さまのWeb標準が進む未来のヴィジョンを伺いまして、非常にスッキリいたしました。

次に来る大きな波(大衆)の筆頭としては、CSSがグラフィカルにオーサリングできるアプリケーションソフトの登場によって、高い学習曲線だった壁をブレイクスルーするステージに上がることかと思っております。

WebブラウザもWeb標準に完全準拠、という波も大きいですね。

それまでは、まだアドバンテージがある内にユーザーエクスペリエンス向上におけるR&D活動や情報デザインの研究、リーダビリティ向上におけるWebライティング技術の研鑽によって創作されたコンテンツ品質の向上など一朝一夕にはいかない暗黙知(tacit knowledge)の領域こそ、力を注ぐべきだということが明確になりました。

今後、益々のご活躍をお祈りしております。ありがとうございました。

Posted by: シュウちゃんねる(shuburin) : 2006年1月19日 05:17

シュウちゃんねるさま、コメントありがとうございます。回答が遅くなりまして、誠に申し訳ありませんでした。

ユーザーエージェントやオーサーリングツールのWeb標準への対応は常に進歩し続けていますが、今後もその必要性を機会のある毎に唱え続け、最終的にはプロ・アマを問わずWebという情報空間内で誰もが標準技術の恩恵に与れるよう、微力ながら尽力していきたいと思います。

今後ともWeb標準Blogをよろしくお願いいたします。

Posted by: ミツエーリンクス : 2006年1月19日 17:44