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Molly E. Holzschlag氏インタビュー(前半)公開

2006年12月8日
フロントエンド・エンジニア 木達

ミツエーリンクスVideocastingにて、Meet the Professionals ~ Molly E. Holzschlag (前半)を公開しました。

「Meet the Professionals」は、Webの世界で活躍する各分野のエキスパートにインタビューを行うシリーズです。今回はWeb Standards Project(WaSP)の現リーダーであり、精力的にWeb標準の普及/啓蒙活動を行っている、Molly E. Holzschlagさんにお話をうかがいました。

なお、このインタビューはWeb Directions 06が開催された9月末にシドニーで収録したものです。

木達:お越しいただきありがとうございます。あなたはWebの世界で非常に有名ですよね。直接お話を伺うことができ、緊張しています。恐縮ですが、自己紹介をお願いできますか?

Molly:もちろんです。お会いできて嬉しいです。インタビューにご招待いただき、ありがとうございます。私はもう随分と長い間、Web業界で働いてきました。私がIT業界で仕事をスタートしたのは20年近く前になります。私は、インターネットの出現に非常に興味をかりたてられたのですが、たまたま、GE(General Electric)社の、覚えている方もいらっしゃると思いますが、GEnieと呼ばれる広告サービス業務に携わることになったのです。

私は彼らがインターネット・ゲートウェイを構築している最中に入社したのですが、93年にWebが出現すると、Webの仕事に携わるようになりました。私はHTMLを学び始め、Webサイトの構築やHTMLを用いたページの作成など、HTMLにかかわる仕事をするようになりました。Mosaicが登場する前の93年、94年のことですから、かなり時代に先行していたと思います。

HTMLのあとはCSSに携わるようになり、その後MSNに移りました。GEの次に、契約社員としてMicrosoft社で5年間働きました。Microsoft Networkは当初、独自のプラットフォームとして作られたもので、まだWeb上のものではなかったのですが、丁度、同社がその構築を手がけていた時期でした。その1年後、MSNはWebへの進出を決めます。彼らが開発していたブラウザ、それがInternet Explorer 3.0でした。

Internet Explorer 3.0がCSS1をサポートしていたことから、そのリリース前から私はMicrosoftでCSSに携わるようになりました。そこでCSSサポートに関する最初の知識を得ることができたのです。HTMLにせよCSSにせよ、いずれも最初は本当に偶然携わるようになったものですが、それ以降もずっと関わることになりました。当然の成り行きとして、私は自分がこれまでに学んできたことや経験を通じて触れることのできた素晴しい体験について、それらの情報を必要としている多くの人々に伝えようと、執筆やワークショップ、カンファレンスなどの活動を行ってきました。

木達:非常に広範囲に活動されているのですね。とくに著書は数多く出版されていて、確か35冊以上ありましたよね?

Molly: 翻訳本を除いて34冊です。35冊目を現在執筆中です。

木達:Dave Shea氏との共著で、CSSデザインについて書かれた最新作は、日本でも発売されています。Web Directions'06 などのカンファレンスに参加するため、1年の大半を世界各地に飛び回っていると思います。日々忙しいなか、どのように時間をやりくりしてこれだけ多くの本を書いているのでしょう?

Molly: いい質問ですね。たぶん私はあまり眠っていないのです。

バランスだと思います。出かけるときにはなるべく一時期に集中させるようにして、あまり出張の予定が入っていない時期に、集中して執筆関係の仕事をするようにしているのです。

物を書くとき、とくに集中して執筆するのは、常に自宅にいるようなときに行っています。本当にバランスが大事だと思います。出張と執筆業をどのようにして両立させるか、何か素晴らしい方法を私が身に着けているわけではないと思います。おわかりのように、忙しい日々のなかで移動をしながら、書きたいと思うことについて書いていくというのは、非常に骨の折れる作業です。

ただ心に留めておいていただきたいのは、私の著書の大半は、現在のように私があちこちを忙しく飛び回るようになる前に書き上げたものだということです。以前は年間に4冊は書いていましたが、ここ数年は1年に2冊程度しか書いていません。本を1年間に2冊執筆しては旅に出て講演をする、それが私にとってのバランスなんです。

木達:では、機内で執筆することはないのですか?

Molly: 実のところ、できるときには機内でも執筆します。みなさんは私が何冊もの本を書き、講演をさせていただいているので、たくさんのお金を稼いでいて、常にファーストクラスで飛んでいると思われるかも知れません。しかし実際は違います。問題は、容易に想像できると思いますが、後方のエコノミー席の狭いシートに座って物を書いていると、たとえば前の席の紳士がシートを後ろに倒したりするじゃないですか。そうすると、もうそれ以上は仕事ができないのです。

実際、機内ではできるだけ仕事をするようにしていますし、実のところ機内で仕事をするのは好きなのです。疲れてさえいなければ、機内で仕事を続けることは苦痛ではありません。飛行機ではあまり眠らないので、そのほうが時間を有効に使えますからね。

木達:では今度は、WaSP、つまりWeb Standards Projectについて伺いましょう。あなたに声をかけていただいたお陰で、私もメンバーに加えていただいています。ただWaSPに関して、あなた自身から詳しいお話を伺ったことはありませんでした。あなたがどのような経緯からWaSPの一員となり、リーダーとして活躍されるようになったか、お話いただけますか?

Molly: とても素晴らしい質問をありがとう。そもそもは、Jeffery Zeldman氏がWeb Standards Projectを立ち上げた頃にまで話はさかのぼります。私の仕事はWeb標準とは関係ありませんでした。初期のころはHTMLやCSS、そしてWebデザインの仕事をしていました。Web標準とかかわるようになったのは1998年ころからです。私がWeb標準のことを知るようになった時期が、ちょうどWaSPの立ち上がったときだったのです。私は自分のしていた様々な仕事を通じてEric Meyer氏などと面識を持ち、Web標準のことも知るようになり、そうした仕事をもっとするようになって、ますます興味を覚えるようになったのです。

2000年には、Jeffery氏が一線から退きたいと考え始め、彼は自分の仕事を情熱をもって引き継いでくれる人物を探していました。業界のなかから適材と思われる人物を何名か選び出した彼は、私にも声をかけてくれました。私は、Jefferyが声をかけてくれたので「イエス」と答えたのです。彼は非常に尊敬すべき人物ですし、我々の業界そしてWeb標準にとって偉大なリーダーですからね。

木達:同感です。

Molly: ええ、誰にとってもそうでしょう、彼はWeb標準の偉大なリーダーだと思います。ですから、彼が私にWaSPに加わるよう、そしてその一員として、彼がほかの目的のために去ってしまったあともWaSPのビジョンに向けて前に進めていくよう声をかけてくれたことは、非常に光栄なことでした。こうしてWaSPに加わるようになった私は、すぐに最も活動的なメンバーの一人となり、やがてSteven Champeon氏とともにグループを引っぱっていくようになったのです。

その後、Stevenがスパムメールに関心を寄せるようになったため、私が事実上のグループ・リーダーのようになり、そうこうしているうちに、ちょうど去年のことですが、より正式な形でグループ・リーダーを決めることになり、私が実際に務めてきた役割だからということだと思いますが、私がグループのリーダーとなったのです。非常に光栄なことです。もちろんStevenは、今もWaSPを技術面でいろいろと運営してくれていますが、以前のように組織の日々の運営に携わることはしていません。

木達:全体として、WaSPの今後についてどのように考えていますか? 複数のタスクフォースがあって、それぞれのグループが目標に向けて非常に熱心に活動していることは知っていますが、将来に向けてのWaSPの戦略とはどのようなものでしょうか?

Molly: 非常に良いポイントだと思います。私も戦略について考えているところです。我々はプロジェクトとして、全体の明確な目標に欠けていると感じています。個々のタスクフォースは非常にパワフルで、はっきりとした目的をもって取り組んでいますし、私も彼らの仕事を誇りに思っています。我々はそろそろ、ある程度全体を調整していくことを考え始めなくてはならないでしょう。そしてより具体的な戦略が必要なのだと思います。

ボランティア組織というのは難しいですね。当然ですが、メンバーはまず自分たちの生計を立て、家族を養うということをしなくてはなりません。我々が活動に割くことのできる時間は限れられていますし、メンバーが非常に忙しくなってくれば、ときにはプロジェクトがつまずくこともあります。成果に対して報酬を支払えるわけではないので、メンバーに指示を出すことは非常に難しくて、私たちはそのことを理解し、柔軟であることが大事なのです。同様に、われわれには優れたリーダーシップとプロジェクト・マネジメントが必要です。こうしたことがWaSPの抱えている問題の一つなのだと私は考えています。

定められた戦略に専念してくれるプロジェクト・マネジャーを雇うことも難しいでしょう。今後数ヶ月をかけて我々が取り組んで行かなくてはならない課題だと考えています。すべてのタスクフォースをひとつにまとめ、お互いのコミュニケーションをよりよくするような、私たちは素晴らしい組織で働いているのだと感じさせるような素晴しい戦略を本気で考え出さなくてはいけないと思っています。ボランティア組織で簡単に達成できるようなことでないでしょう。でも、努力を続けるしかないと思いますし、時間をかければ実現できることだと私は考えています。